近年、マーケターの間で注目を集めているのが「カスタマージャーニーマップ」です。顧客の行動や心理を可視化し、より良い体験を提供するためのこのツール。本記事では、カスタマージャーニーマップの基本的な意味合いから、具体的な作成方法、企業の活用事例まで、網羅的に解説していきます。
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カスタマージャーニーマップとは?本質的な目的を解説
そもそもカスタマージャーニーマップとは何でしょうか。一言で言えば、顧客視点での購買・利用プロセス全体を可視化するためのフレームワークです。商品・サービスを「認知」してから「購入」「利用」し、ロイヤルカスタマーになるまでの流れを図式化。各接点で顧客が抱く心理的な変化もあわせて整理します。
顧客体験にフォーカスしたマップ
カスタマージャーニーマップの特徴は、徹底的に顧客目線に立つところ。単なる購買行動の記述ではなく、そこで感じている感情の機微に着目します。満足のいく体験だったのか、不便や不満を感じなかったか。そうした心情の動きをくみ取ることで、真の顧客理解が可能になるのです。
ペルソナ設計とセットで効果を発揮
カスタマージャーニーマップに取り組む前提として欠かせないのが、ペルソナの設計です。ペルソナとは、対象顧客像を具体的な人物像として描写したもの。性別、年齢、職業、趣味嗜好など、できる限りリアルなイメージを膨らませておきます。このペルソナ像があって初めて、カスタマージャーニーが描けるのです。
3つのメリット
カスタマージャーニーマップ作成のメリットは大きく3つあります。
潜在ニーズの発見
表面的な購買行動だけでは気づきにくい、ユーザーの潜在ニーズを掘り起こせます。心理的なハードルになっているポイントが明らかになれば、そこを集中的に改善する打ち手が見えてきます。
チャネル間の連携強化
Webサイトや店頭、アプリ、SNSなど多岐にわたる顧客接点を一望のもとに捉えられます。それぞれの役割と連携のあり方を見直すきっかけになるでしょう。
社内認識の共有
部署間で感覚的に温度差のあった顧客理解が、マップを通じて統一されます。優先すべき施策も自ずと明確になり、チーム一丸となって取り組める体制が生まれます。
基本的な5つの作成ステップ
カスタマージャーニーマップ作りの肝は、以下の5つのステップにあります。順を追って見ていきましょう。
Step1:ペルソナ像を明確化
スタート地点はペルソナ設計です。性別、年代、ライフスタイルなどの基本属性に加え、日頃の関心事や抱えている課題なども想定。ありありとしたペルソナ像を思い描きます。
Step2:体験フェーズを区分け
認知、興味関心、比較検討、購入、利用、ロイヤルティ、といった一連の体験フローを、自社なりのフェーズに区切ります。この枠組みに沿ってカスタマーの行動を書き出していきます。
Step3:行動と感情を書き出す
各フェーズでペルソナがとる行動を想定し、言葉にしていきます。何を見て、どう感じ、どんな選択をするのか。可能な限り具体的に表現。併せて、そのときの感情の動きも汲み取ります。ワクワクしている、不安に思っている、戸惑っている、満足している、など、ポジティブ・ネガティブ両面の感情変化を捉えるのがポイントです。
Step4:問題点と打ち手を整理
行動と感情の流れから見えてきた問題点を抽出。認知経路が少ない、比較検討の手間が大きい、初回利用時の満足度が低い、など課題を列挙します。その解決策のアイデアも自由に発想。機能改善、UIの最適化、コンテンツの拡充など、問題意識に立脚した施策案を出し合います。
Step5:マップをデザイン
最後は、これまでの内容をマップの形に落とし込む作業です。図解はシンプルな矢印と四角の組み合わせで十分。ビジュアル的にわかりやすく、ポイントが過不足なく伝わることが大切です。一目見ただけで顧客体験の本質が見えるよう、内容を吟味しながら完成させましょう。
実践企業に学ぶ、3つの活用事例
実際にカスタマージャーニーマップを導入し、成果を上げている企業事例を3つご紹介します。
事例1:株式会社ジェーシービー
株式会社ジェーシービーは、クレジットカード入会初期のユーザー向けメール施策を改善するためにカスタマージャーニーマップを作成しました。従来の1ヶ月後のメールマガジン送付が適切なタイミングではないことが判明し、入会者の行動と情報ニーズを整理しました。その結果、カード到着時(入会1-2週間後)に「入会お礼メール」を送付したところ、70%の高開封率を達成。さらに、未利用者へのフォローメールでカード稼働率が5%改善しました。
カスタマージャーニーマップを通じて、ユーザーのニーズに合わせたタイミングと内容でメール施策を最適化し、効果的なコミュニケーションを実現しました。
事例2:株式会社パモウナ
株式会社パモウナは、Webサイトリニューアルにあたり、カスタマージャーニーマップを活用しました。現状の課題を明確にするAsIsマップと、理想の解決策を示すToBeマップの2種類を作成。事前に利用者や店舗へのヒアリングを徹底的に行い、ペルソナ像を明確化したことで、ユーザーの心理状態に合わせた具体的な施策を打ち出すことができ、コンバージョン率を199%アップさせる成果につながりました。
事例3:ピーシーエー株式会社
ピーシーエー株式会社は、HubSpot導入に際し、ペルソナ設計とカスタマージャーニーの整理を行いました。マーケティング部門だけでなく、顧客との関係性が深い担当者も交えて部門横断でペルソナを再設計。また、ペルソナのフェーズごとに起こすアクションを想定し、メール開封通知を利用して見込み客の関心が高いタイミングで効果的にアプローチしました。この取り組みにより、MRRを5倍に成長させることに成功しています。
便利なツール・テンプレート集
カスタマージャーニーマップ作成に役立つ、おすすめの無料ツールをご紹介します。
オンラインツール3選
汎用性の高いオンラインツールも充実しています。手軽に使えるおすすめ3選は以下の通り。
Miro
オンラインホワイトボードの定番Miro。豊富なテンプレートとコラボ機能が売りです。
Lucidchart
操作性抜群のLucidchart。シンプルながら本格的なマップ作成ができます。
KUMU
高度な分析ニーズにも応えるKUMU。ユーザー体験を多角的に捉えられます。
陥りがちな失敗と、成功のコツ
最後に、カスタマージャーニーマップ作成時の注意点と心がけたいコツを確認しておきましょう。
共感マップで土台作り
基礎理解を深める前段として、共感マップの活用がおすすめです。ペルソナの考え(Think)、感情(Feel)、発言(Say)、行動(Do)を4象限で整理。仮説立案の材料が得られるでしょう。
検証サイクルを回す
あくまで仮説に基づくマップであることを意識し、実データと突き合わせて修正を繰り返すことが肝要。PDCAサイクルを回す前提で臨みます。
定期的な改善を怠らない
顧客の行動様式や意識は刻々と変化するもの。最低でも四半期に1度は見直しを図り、アップデートを重ねていく継続的改善の姿勢を貫きましょう。
こだわりすぎない
完璧を目指して時間をかけすぎるのは本末転倒。大切なのはスピード感を持って仮説検証を進め、実直にブラッシュアップしていくことです。
まとめ
カスタマージャーニーマップについて、以下のようなエッセンスを解説しました。
- 顧客視点に立った体験の可視化ツールであること
- ペルソナ像とセットで効果を発揮すること
- 作成の5ステップ(ペルソナ像の明確化→体験フェーズの区分け→行動と感情の書き出し→問題点と打ち手の整理→マップデザイン)
- 便利なツールを上手に活用できること
- 共感マップを土台に、検証サイクルを回す継続的改善の意識が重要であること
自社のマーケティング課題解決に向けて、ぜひカスタマージャーニーマップの導入を検討してみてください。ユーザー起点の発想と地道な改善の積み重ねが、真の顧客価値の実現への近道となるはずです。